骨色の道を歩いた

故郷にかえる道すがら
骨色の道を歩いた
自分の心の
捨て場をさがして


乾いた荒畑が人影もなくつづく
素焼の土管ばかりいくつも横たわり
墓地のようだった
傾いた陽で空は焦げていた
鳶の翼が長い影をおとし
背中を圧す風にきづく
小止みないつめたい風に身震いする


愛することはむずかしい
愛されることよりずっと
その現実に打ちのめされて
素焼の土管たちは群れ
死んでいた
土ぼこりに空が赤くにごると
犬の声
誰かを呼ぶ不安げな声
それから
暗渠をながれる水の音がきこえた
最初の星が空で光りはじめた


ここに井戸を掘るべきだ


もしほんとうに
星の光を見つめたいなら
なるべく深く
井戸を掘るべきだ
極東のある島国で
学者たちが
星々の小さなうぶごえを聞くために
鉱山の底へ井戸を掘った
一〇〇〇メートル
それから
世界中の学者たちが
星々の奇妙なおたけびを聞くために
南極の氷の底へ井戸を掘った
二四〇〇メートル
鉱山で地の底に向かって
南極で氷の底に向かって
彼らは耳を澄ました


ここに井戸を掘るべきだ


あまりに微かな
君の心のささやきを聞くために
一〇〇〇メートル
二四〇〇メートル
それを超える
深さ
寒さ
静けさ
孤独

すべて
必要だから


最初の星が空で光る
暗渠をながれる水の音をやぶり
誰かを呼ぶ不安げな声
犬の声
それから
傾いた陽が藍色のおおきな陰を落とし
鳶の長い翼が山へおちていく
素焼の土管たちは夜闇にとけて
背中に取り残されたのは
小止みないつめたい風だけ


故郷にかえる道すがら
骨色の道を歩いた
自分の心の
捨て場をさがして