正義はいずれ表現されねばならぬ

ゆがんだレンズで
店長のまぶたは融けて
ビルに穿たれた
無数の暗い窓からは
一千億の眼がのぞくのさ
ラジオの立てる
断定的な音波
ひどく硬質な文言たちに
店長は融かされていくのさ
誰も見たことのないような
目尻からこめかみへ伸びるしわ
空気をちぎるように
店長は声を発する
新聞はしばらく来んよ
飛行機がビルに突っ込んだ
あっちはもう戦争だよ
戦争
暗闇は骨の味で
断定は亡霊の悲鳴
正義はいずれ
表現されねばならぬ
窓に穿たれた一千億の眼が
店長をのぞきこむのさ
ゆがんだレンズで
店長の皮膚はただれ
記憶は再燃する
死んだブラウン管と同じ黒で
あらゆる窓は埋まっているのさ
極彩色の正義を
塗りつけるのに
うってつけな
眠りこけた
黒いキャンバス
東京にいる誰もまだ
目覚めていない
午前三時半


(2001年作)