テオ・ヤンセン展

 正月の話になってしまうけれど、テオ・ヤンセン展に行ってきた。

企画展『「テオ・ヤンセン展~生命の創造~」物理と芸術が生み出した新しい可能性』展示概要 | 日本科学未来館 (Miraikan)


 オランダのアーティストであるテオ・ヤンセンさんの作品・風食生物「ストランド・ビースト」達が連れて来られていると聞いて、それは是非見てみたいなと思ったのだった。ストランドビーストは骨だけのような外観で、風を受けて歩く。本当に風だけで自立歩行する。高度に進化したタイプのものは、風を背中の帆で受けてペットボトルの胃に蓄え、風が止んだら歩き出し、海面や障害物を神経系で察知して避けることができる。

 こんな巨大なものが風だけで動くなんてにわかに信じられないけれど、会場で行われていた実演では、本当に結構なスピードで動いていた。こちらに向かって歩いてくる時なんて物凄い迫力で、前列にいた子供がしりもちを突いていた。
 テオ・ヤンセンさんはもともとライフゲームなどのコンピューターアートなどを手がけていたそうで、ストランドビーストの製作もプログラムでシミュレートした結果を元にしているそうだ。足を構成する骨の長さの比率を遺伝子に見立て、1000以上のパターンを生成して互いに競争・交配させ、最良の歩行フォームを実現できるものを選び出す。専門用語で言えば「遺伝的プログラミング」だ。コンピューターの中で仮想の生態系を実現し、遺伝子を進化させる。
 そのシミュレーションの結果をコンピューターの世界に留まらせず、現実の世界で生物として実現してしまうのが面白いと思った。現実に持ち込むと、シミュレーションはもう役に立たない。後はひたすら現実を相手にしたトライ・アンド・エラーだ。テオ・ヤンセンさんという神様の手の中で、浜辺を舞台に、ストランド・ビーストは進化と多様化を続けた。
 ストランドビースト達について、「これは生物だ」とテオ・ヤンセンさんは言い切る。風を食べる風食生物だと。エネルギーを蓄えて自ら移動し、人の手を借りながらも繁殖や進化を続けていく。生物についての固定観念を捨てれば、いかにもこれは生物だ。足だけが動くビーチアニマルの最初のバージョンが会場の入り口に横たわっていた。岩の割れ目から触手が伸びているような作品で、まさに原初の海を思わせるものだった。

 生命の誕生、というと何だか荘厳な感じがするけれど、もしかしたら、テオ・ヤンセンさんの作品のような無邪気な遊びから生まれたのかもしれない。僕も無邪気に遊んで、自分だけの生命を作ってみたい気持ちになった。僕がやるとしたら、やっぱりプログラミングだろうな。会場に来ていた子供も、ビーチアニマルを作れるコーナーがあると聞いて「どこで作れるの?」と妙に切羽詰った真剣な声で聞いていた。そういえば僕も、本当に興味深いものに出会った時は、はしゃぐというよりも真剣で切羽詰った感じになったなあ、と思い出す。
 テオ・ヤンセンさんをなんとなく「さん」付けで書いていた。NHKのBSでやっていたテオ・ヤンセンさんのドキュメンタリー番組を見て、そのお洒落で素朴で知的で無邪気な人柄にとても惹かれてしまい、これは「さん」付けだな、と思ったのだ。元は物理学専攻の理系出身というのもなんだか親近感を覚える(僕はどちらかといえば文系だが)。優秀なエンジニアでもあるのだろう。ストランド・ビーストの仕組みや成り立ちについて嬉々として教えてくれる様子は、オープンソースで活躍するプログラマーに通じるところもある。凄いものを作ったんだ! 見てくれ! という気持ちが、凄く良く分かる。足の仕組みが世界中の色々な人にマネされて、ストランド・ビーストの様々な亜種が勝手に作られているのも、素直に喜んでいた。言わばオープンソース・アートだ。
 なかなか壮大なテーマの展示だったけれど、会場は割とこぢんまりとしたスペースで、1時間もあれば余裕で見て回れそうだった。実演も頻繁にやっていたので、見逃す心配はないだろう。気軽な雰囲気だったけれど、ただチケットが割と高いのが気になった。(テオ・ヤンセン展だけ・常設展なしで大人1200円)まあでも、あの巨大なストランド・ビーストの輸送費を考えたら仕方ないのかもしれない。2月14日までやっているそうなので、バレンタインのデートにどうぞ。僕はバレンタインには家に引き篭もっていようと思うので行きません。

追記

 そういえば、帰り道に寄ったロッテリアが凄かった。何が凄いかというと、蔵書が(笑)。まさかロッテリアで「ゲーデルエッシャー・バッハ」を見る時が来るとは……。他にもライフゲーム機械学習の本、エクストリームなDIYを行うオライリーの雑誌「Make」などなど、理工書の名著や良書や面白本が置かれていた。誰が本の選定をしたんだろう……。
 あとスズメが暢気にフライドポテトを食べに来ていた。暖かくて餌がいっぱいで良いのだろう。

さらにお詫び追記

 写真がピンボケでごめんなさい。たぶん撮影モード間違えてました。